ジョブマーケットペーパー2022-23

ニュースに過剰反応する投資家(ハーバード JMP No. 2)

前回のブログでは、大学の専攻と卒業後の就職の勘違いについてのジョブマーケットペーパーを紹介しました。

今回のブログでは、同じハーバード大学からのジョブマーケット候補者Spencer Yongwook Kwonのジョブマーケットペーパー(JMP)を紹介します。行動ファイナンス、株価変動の行動経済学的モデルに興味がある方には注目の論文です。

ハーバード大学院生ジョブマーケット候補2:Spencer Yongwook Kwon

JMP解説2人目に選んだのは、ハーバード大学の院生Spencer Yongwook Kwon。研究分野は行動経済学、行動ファイナンス。彼も今年のスターの一人で、院生とは思えないほど突出した研究業績を出しています。

JMPの他に、すでにQJEとJournal of Financial Economicsからそれぞれ1本ずつ論文を出し、QJE、AER、Review of Economic Studiesに1本ずつR&Rしています。

JMP

Blank, Michael, Spencer Kwon, and Johnny Tang. (2022). “Investor Composition and Overreaction.”

その他の論文

Bordalo, Pedro, John J. Conlon, Nicola Gennaioli, Spencer Y. Kwon, and Andrei Shleifer. (2021). “Memory and probability.” The Quarterly Journal of Economics 138.1: 265-311.

Bordalo, Pedro, Nicola Gennaioli, Spencer Yongwook Kwon, and Andrei Shleifer. (2021). “Diagnostic bubbles.” Journal of Financial Economics 141, no. 3: 1060-1077.

Kwon, Spencer Yongwook, and Johnny Tang. (2020). “Extreme Events and Overreaction to News.” Available at SSRN 3724420 (Revise and Resubmit, Review of Economic Studies)

Afrouzi, Hassan, Spencer Yongwook Kwon, Augustin Landier, Yueran Ma, and David Thesmar. (2020) “Overreaction in expectations: Evidence and theory.” Available at SSRN (Revise and Resubmit, Quarterly Journal of Economics)

Kwon, Spencer Yongwook, Yueran Ma, and Kaspar Zimmermann. (2022). “100 years of rising corporate concentration.” (Revise and Resubmit, American Economic Review)

ジョブマーケットペーパーの概要

付録を含めると100ページの長い論文ですが、ここでは、簡単に論文の内容をまとめます。論文に興味を持った方は元論文を読まれることをお勧めします。

短期間に上昇した株価はその後下がる?

株価が急激に変動する原因の一つに、投資家のニュースへの過剰反応がある。この論文では、急激に上昇した株価がその後下がるかどうかを、ニュースに過剰反応する投資家と合理的な投資家の2種類の投資家が存在する金融市場の理論モデルを構築して推論し、実際の投資行動のデータを使ってモデルの妥当性を検証。

理論モデルは、ニュースに過剰反応する投資家が保有する株と、合理的な投資家が保持する株の差を「ニュースへの過剰反応度」とし、「ニュースへの過剰反応度」(過剰反応する投資家と合理的な投資家の投資の差)が大きいほど、急激に上昇した株価はその後下がることを予測。投資行動のデータを分析し、投資家の過去の行動からニュースに過剰反応する投資家と合理的な投資家に分け、予測の正当性を確認。

ニュースに過剰反応する投資家は低利益

過剰に反応する投資家は、ポジティブな決算発表のニュースに過剰に反応し株を購入するが、合理的な投資家と比べると購入のタイミングが遅く、合理的な投資家より利益が少ない。過剰に反応する投資家は、株価が上がる前に低い価格で購入しておいた合理的な投資家から高い値段で株を購入することになるが、その後株価は下がってしまう。

研究アイデアと汎用性

ニュースに過剰反応する投資家の存在で株価の変動を理論的に説明し、実証した論文は初めてではないかと思います。その意味で、行動ファイナンスの研究の発展に大きく貢献したと考えます。実証研究は株式市場のデータを使っていますが、この研究の基本的なアイデアは、暗号通貨などその他の資産の価格変動にも使えると思うので、汎用性も高いでしょう。